日本の農作物を東南アジアへ

東南アジア向けに果物輸出事業を行うベンチャー企業の成功事例について、お話しいたします。

日本は桜の咲く春、夏は夏祭り、紅葉の秋、雪景色の冬と四季折々の風情が楽しめる国ということで、シーズンになると海外から沢山のお客様が来日し、年々人気が加速しています。
そのインバウンド効果もあり、日本の果物は少しずつ海外にも認識されるようになりました。
四季ごとに、春はいちご、夏はすいかや梨、秋といえば柿や栗、冬はみかんと、旬の農作物が楽しめるのも日本の魅力の一つです。

農林水産省の輸出に関する統計で、輸出額の多い相手国や輸出額の多い農産物を調べてみました。
2019年の農林水産物・食品輸出額月(1-11月)国・地域別統計で、1位 香港、2位 中国、3位 アメリカまでは海産物やアルコールの輸出が多いのですが、4位の台湾への内訳を見ますと、りんごの輸出量が一番多い結果になっております。
2019年農林水産物・食品 輸出額(1-11月)品目別統計の内、野菜・果実等に焦点を当てますと、1位りんご、2位ぶどう、3位ながいも、4位もも、続いていちごです。

今回紹介するベンチャー企業は、その1位であるりんごの輸出のビジネスモデルを、しっかりとしたコンセプトと調査に基づいてつくられています。
「日本の農業を強く、農家を豊かに」というビジョンを掲げ、アジア圏を中心に海外展開されています。
タイやインドネシアにりんごを輸出、シンガポールにはいちご、香港にシャインマスカットと桃を輸出されているようです。

同社は、2016年に大学の同級生5名で起業したばかりのベンチャー企業で、農業会の抱える問題を解決したいという想いが起業のきっかけになったそうです。
日本の農作物は需要と供給量で価格が決まり、豊作で供給量が増加すると農作物の単価が下がります。
豊作の時に国内流通で余剰となった豊作物を、流通業者が主導で海外に輸出するプロダクトアウト型の生産構造でした。
しかし、生産者と協働し「輸出用の農作物」を生産することで、産業構造への変換を狙いました。
そして海外に販路をつくることで、日本の農家の持続的な成長につなげることを目標とされています。

起業当時、飛込営業で農家と現地輸入企業に話を持ち掛け、直接輸入業者と英語で交渉・提携し、うまく輸出されています。
農業会で交渉事が多くないため、そのような点を代わりに担うことで問題をクリアされているようです。

また、成功の要因は、取引先の国を見つけたら、ただ輸出するだけでなく、輸出できたとしても現地で購買されないことには意味がないと、現地の卸売店の調査を行うまでし、しっかりとフォローされている点にあると思います。
従来の輸出商社と比較して、販売側に深く介入されていることもポイントのようで、タイ最大手の果物輸入業者とパートナーシップを締結し、なんと会社からメンバー一人を派遣したそうです。

オリジナルのりんごのブランドをつくり、店頭販促プランなどを小売店に直接提案、消費者へピーアールするところまでを行っておられます。
どんなに上手に輸入業者へ果物の魅力を伝えられたとしても、最終的にりんごを口にするお客さんに到達するまでに本当にその良さが伝わるかどうかは、輸入者の先の業者の販売の仕方にかかっていますが、間接的になり段々話が薄れるものです。

輸入品というのは輸送費もかかることもあり、海外で販売されている日本の果物は、富裕層向けや贈答品であるイメージがあります。
同社は、タイのマーケットにあった品種・サイズ・東急を輸入業者・小売店・仲卸業者などと密に議論しながら決定し、アッパーミドル層が日常的に購入できる価格帯での販売を可能にしたそうです。

タイは都会化が急速に進んでいるものの、まだまだ日本より物価が低いです。
物価の異なる国でミドル層にも日常的に購入してもらえる価格をつくりだすという非常に難しいことに挑戦し、短期間で成功されている点にも関心してしまいます。

同社は、タイにおいてはりんご輸出のシェア36%を獲得されたそうです。
また、既に日本産りんごが一定の地位を確立している香港・台湾においては、品質と価格の両立に重きを置き、それぞれの国において現地パートナーとともに販売を行っておられるそうです。
その他東南アジアの国(マレーシア・インドネシア・フィリピン・ベトナム・シンガポールなど)にもコンテナ単位での輸出を行ったり予定をされており、積極的なマーケティング活動を行っておられます。

他社と異なる視点から海外進出をはかり、生産すればするほど儲かりづらくなる産業構造を変えるという点が、農業のかかえる問題に対しての抜本的解決に通じており共感することができました。
日本だけの市場では縮小が懸念される農業会の未来へ、この構造を切り札として、ほかの国でも日本産の果物が店頭に並ぶようになり、それが日常的な光景となる日が楽しみです。