移転価格税制のポイント

経済の国際化に伴い国外関連者との取引はますます複雑となり、その内容もいわゆる有形資産から無形資産やサービス取引へと拡大していることは周知のとおりです。

令和元年度の税制改正では、OECD移転価格ガイドラインの改定内容を踏まえ、独立企業間価格の算定方法の整備等がなされています。

今回は、日本の「移転価格税制」についてのポイントを改めて整理していきたいと思います。

税制改正の背景 

日本における移転価格税制は、OECDの移転価格ガイドラインのBEPS(※)プロジェクト行動13の最終報告書に足並みをそろえる形で整備されてきました。

BEPS行動13においては、多国籍企業は、企業グループ全体の概要・実績等を示す文書を作成し、各国税務当局に提出する義務が課されることとなっており、平成28年度税制改正においては、OECD移転価格ガイドラインを踏まえて、記載項目の追加・明確化等、所要の整備が行われました。

また、令和元年度の税制改正では、BEPS行動8-10に関連し、無形資産等の取扱いについての新たな基準も設けられました。

※BEPS 「Base Erosion and Profit Shifting」の頭文字による略です。日本語では「税源浸食と利益移転」と言われています。OECDは、グローバル企業の行き過ぎた節税を防ぐためのBEPS対策として、15項目の行動計画を発表しました(BEPSプロジェクト|国税庁)。

移転価格税制にかかる文書化制度の概要 

我が国の移転価格税制にかかる文書化制度は、直前の会計年度の連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループの構成会社等である内国法人又は恒久的施設を有する外国法人(以下、特定多国籍企業グループ)で一定の要件を満たす法人は、以下の書類を提出する必要があります。

①   最終親会社等届出事項(最終親会社等に関する情報)

②   国別報告事項(国別の活動状況に関する情報)(CbCレポート)

③   マスターファイル(事業概況報告事項)(MF) 

④   ローカルファイル(独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類)(LF)

 (①・②・③は電子申告(eTax)により提出、④は社内で保管)

①最終親会社等届出事項

特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人又は恒久的施設を有する外国法人は、最終親会社等及び代理親会社等に関する情報を記載した最終親会社等届出事項を、報告対象となる会計年度の終了の日までに、e-Tax により、所轄税務署長に提供する必要があります(措法66条の4の4⑤)。

②国別報告事項(CbCレポート)

移転価格リスクの評価を行うための情報(主に定量的なデータ)をまとめたもので、特定多国籍企業グループの最終親会社等または代理親会社等である内国法人に対して報告対象となる会計年度の終了の日の翌日から1年以内に、e-Tax により、所轄税務署長に提供する必要があります。

(措法66の4の4①、措令39の12の4、措規22の10の4等)

CbCレポートは、その法人グループの国別の活動状況を示す重要な書類で、記載事項については、措規22条の10の4第1項に規定されています。

参考1

参考2

③マスターファイル(MF)

多国籍企業グループ内の重大な移転価格リスクを特定できるように、グループ全体の組織構造や事業の概要、財務状況等について記載するもので、CbCレポートと同様に特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人又は恒久的施設を有する外国法人は、事業概況報告事項(MF)を、報告対象となる会計年度の終了の日の翌日から1年以内に、e-Tax により、所轄税務署長に提供する必要があります(措法66の4の5①、措規22の10の5等)。

MFとCbCレポートはグループ全体の事実関係を開示する資料となり、多国籍企業グループが世界のどこの国で何をしているのか、また、どこの国にどれくらい所得を配分しているのかを税務当局が把握するための資料となります。

④ローカルファイル(LF)

連結総収入金額が1,000億円以上の取引がなくとも、国外関連者との取引、いわゆる海外の子会社や関連会社と取引を行った法人については、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(LF)を申告期限までに作成して保存する義務(同時文書化義務)が課されます(措法66の4⑥、措令39の12、措規22の10①等)。

これらの書類の提出を求められた場合、45日以内の指定日までに提出する必要があります。

ただし、前事業年度においてその国外関連者との間で行った国外関連取引が取引金額50億円未満、かつ、無形資産取引金額3億円未満である場合には、その国外関連者との間で行った取引については同時文書化義務が免除されます(同時文書化免除取引)。

注意が必要なのは、同時文書化することが免除されるだけで、税務調査等の際に国外関連取引の価格根拠を示すうえで基準未満の法人にもLFに相当する書類の作成義務はあるということです。

また、税務当局よりLFにおける独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類を求められた場合は、同時文書化免除取引の場合も含めて60日以内の指定される期限までに提出する必要があります。(LFの基礎となる事項・関連する事項を記載した書類等)

税務調査においてこれらの提出を求められた場合に、期限までに提出しなかったときは、「推定課税」による一方的な課税が行われる可能性があるので注意を要します。

LFは、個々の国外関連取引に関する詳細情報を提供する形で、海外子会社との取引について詳細な事実関係の説明と移転価格分析を行った結果を記載します。

記載項目については、措規22条の10第6項に具体的に明示されています。

例示集|国税庁

文書化対応への基本的な考え方

日本親会社の側ではMFの作成義務は発生しないものの、海外子会社でMFやLFの作成義務がある場合、日本親会社が全くこれに関与しないわけにはいきません。

日本側での各文書の対応整備は言うまでもなく、各文書間の整合性や国外関連者が作成した移転価格文書等との整合性についても見ていく必要があります。

海外子会社側において当局からの課税を逃れるためだけの都合の良いLF等が勝手に作られては、日本親会社を中心としたグループ全体のビジネスにも影響が出てくるからです。

今後は、親会社主導の移転価格マネジメントの重要性が、なお一層増していくものと考えられます。

移転価格調査による課税を想定した場合、数千万円から数億円以上の課税となるため、海外進出企業にとって移転価格税制への対応は必須事項です。

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